大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)104号 判決

原告主張の請求原因事実は、全部当事者間に争いがない。この事実によれば、本件審決は原告主張の違法があることが明らかであるから、取消を免れない。

よつて、原告の請求を認容する。

〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

請求の原因

一 特許庁における手続の経緯等

佐藤造機株式会社は、昭和三六年九月三〇日、名称を「動力耕うん機に於ける耕うん装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をしたところ(昭和三六年特許願第三五六七四号)、昭和三八年一〇月四日拒絶査定を受けたので、これを不服として審判の請求をした。この請求に対し、特許庁は同年審判第四七一六号事件として審理したが、昭和四四年八月二六日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年九月九日同会社へ送達された。

同会社は、同年一〇月六日本訴を提起したところ、昭和四六年四月二二日東京地方裁判所において更生手続開始決定を受け、原告が管財人に選任された。原告は、同年六月一日本訴の訴訟手続を受継いだ。

二 本願発明の要旨

耕うん部チエンケース直下に、機体の進行方向に対し、凹状に彎曲した抵抗用兼残耕処理刃を装設し、上記抵抗用兼残耕処理刃の下端部にはサクシヨン角θを与えて安定鈑を固着すると共に、その抵抗用兼残耕処理刃の前縁彎曲部の下端を、回転耕うん刃の回転軌跡よりも前方に装設したことを特徴とする中央伝導型動力耕うん機に於ける耕うん装置

三 審決理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

異議申立人ヤンマー農機株式会社の提出した甲第一号証から甲第三号証までの刊行物には、それぞれ次の事項が記載されているものと認める。

(一) 甲第一号証(実公昭三三―一七〇七号公報、以下「第一引用例」という。)「耕耘部チエンケースの後方下端に中央稜線を機体の進行方向に対し凹状に彎曲し両側下方に耕土耕起面とこれの上方に連続して耕土反転面とを形成した残耕処理用耕耘爪を取付けてなる中央伝導型動力耕耘機。」

(二) 甲第二号証(実公昭三三―一九八〇三号公報、以下「第二引用例」という。)「機体の進行方向に対し凸状に彎曲した抵抗杆をチエーンケースの前方に位置させて耕耘部機枠に装設し、上記抵抗杆の下端部にはサクシヨン角を与えて抵抗杆浮上防止用の浮鋤板、すなわち安定鈑を固着すると共に、抵抗杆の前縁部下端を回転耕耘刃の回転軌跡よりも前方に位置せしめてなる中央伝導型動力耕耘機。」

(三) 甲第三号証(実公昭三五―三一六〇一号公報、以下「第三引用例」という。)「前縁は刃となし、下半部を後方に彎曲し、下部を急角度に前方に彎曲した刃身の下端に断面ほぼ三角形の爪部を形成してなる残耕処理刃を回転耕耘刃の回転軌跡よりも前方に位置せしめて耕耘部機枠に取付けてなる動力耕耘機。」

そこで、本願発明(以下、これを前者という。)と第二引用例に示すもの(以下、これを後者という。)とを対比するに、両者は、「下端部にサクシヨン角を与えて安定鈑を固着した抵抗部材(抵抗用兼残耕処理刃、抵抗杆)チエンケースの前方に位置させて取付箇所(チエンケース、耕耘部機枠)に取付け、抵抗部材の前縁下端を回転耕耘刃の回転軌跡よりも前方に位置せしめてなる中央伝導型動力耕耘機」である点において一致しており、次の(X)(Y)の二点において相違しているものと認める。

(X) 抵抗部材の取付箇所が、前者にあつてはチエンケース直下であるのに対して、後者にあつては耕耘部機枠である。

(Y) 抵抗部材が、前者にあつては機体の進行方向に対し凹状に彎曲していて残耕処理を兼ねるものであるのに対して、後者にあつては機体の進行方向に対し凸状に彎曲しているものである。

次に、前記相違点について検討するに、前者のチエンケースが耕耘部機枠を兼用するものであることはその図面の記載に徴して明らかであり、このように中央伝導型動力耕耘機のチエンケースを耕耘部機枠に兼用するとともに、これに残耕処理刃を取付けることは従来周知である(たとえば、実公昭三五―三二五〇五号公報参照)ので、前記相違点(X)は抵抗部材を取付けるべき箇所が耕耘部機枠を兼用するチエンケースであるか耕耘部機枠であるかの差異に帰着するものであり、前者は従来周知な耕耘部機枠を兼用するチエーンケースを使用したに過ぎないものであるから、前記相違点(X)は必要に応じて容易にできる単純な設計変更であつて発明を構成するに足りないものと認める。

前者の抵抗用兼残耕処理刃は、その前縁によつて耕土を剪断する際に後者の抵抗杆と同様に抵抗部材として作用するものであり、第一引用例における残耕処理用の耕耘爪のように耕土を直接耕起するものではなく、その下端に設けてあるサクシヨン角を有する安定鈑によつて耕起された耕土の反転を助勢するものであると認める。

後者の抵抗杆は、第三引用例の下端に耕起用爪部を形成した残耕処理刃の刃身の位置に対応する位置に設けられていて耕土を剪断し、その下端に耕起用安定鈑を有するものであることによつて、残耕処理の作用を有しているものと認める。

そして、抵抗部材の彎曲方向が機体の進行方向に対して凹凸という具合に相違していても、その彎曲の仕方が同じ場合には、前進抵抗によつて生じるモーメントには差異がなく、抵抗部材に沿つて耕土の滑る方向が上下反対になるに過ぎないものであり、かつ、耕起面に連続して設けた反転面を機体の進行方向に対して凹状に彎曲することが第一引用例によつて従来公知であるので、後者における耕土耕起用安定鈑の上方に連続している抵抗杆の前縁をして耕土を反転できるように機体の進行方向に対し凹状に彎曲することは、必要に応じて容易にできる設計変更であるものと認められるから、前記相違点(Y)は発明を構成するに足りないものと認める。

結局、前者、すなわち本願の発明は、その出願前日本国内に頒布された前記各引用例に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定に該当し、同法同条に規定する特許の要件を具備しない。

四 審決を取消すべき事由

審決が本願発明の抵抗用兼残耕処理刃と第二引用例の抵抗杆とを比較して、「抵抗部材の彎曲方向が機体の進行方向に対して凹凸という具合に相違していても、その彎曲の仕方が同じ場合には前進抵抗によつて生じるモーメントには差異がない」旨認定したのは、モーメントの方向についての認定を誤つたものである。したがつて、審決がこの誤つた認定を前提に「抵抗杆の前縁をして機体の進行方向に対し凹状に彎曲することは必要に応じて容易にできる設計変更である」としたのは、事実を誤認するものであり、審決はこの点において違法であり取消を免れない。

本願発明の耕うん機の機体が前進すると、別紙(〔編註〕省略)第一図および第二図に示すように、傾斜前面を有する抵抗杆には抵抗杆前面の耕土によつて、該抵抗杆の傾斜前面に対して直角方向の牽引抵抗Rが作用する。ところで、牽引抵抗Rは、機体の前進方向に対して逆方向に作用する水平方向の力RHと垂直方向に作用する力RVとに分解することができる。

しかして、前記機体の前進方向に対して逆方向に作用する水平な力RHは、RHと逆方向の牽引力FIと均衡し、O点の回りのモーメントとしては作用しない。したがつて、O点の回りのモーメントの方向は、機体の前進によつて生ずる牽引抵抗Rのうち垂直方向に作用する力RVがモーメントアームOC1´またはOC2´に対して上向きであるか、それとも下向きであるかによつて決定される。しかるところ、別紙第一図に示す抵抗杆(機体の前進方向に対して後方に傾斜せしめた抵抗杆)に作用する垂直方向の力RV、モーメントアームOC1´に対して上向きであるのに対し、第二図に示す抵抗杆(機体の前進方向に対して前方に傾斜せしめた抵抗杆)に作用する垂直方向の力RVは、モーメントアームOC2´に対して下向きであることがわかる。このことによつて、第一図に示す抵抗杆には該抵抗杆をO点を支点として上方に回転せしめようとするモーメントが作用するのに対し、第二図に示す抵抗杆には該抵抗杆をO点を支点として下方に回転せしめようとするモーメントが作用していることが明らかである。

しかるに、審決が抵抗部材の彎曲方向が機体の進行方向に対して凹凸という具合に相違していても、その彎曲の仕方が同じ場合には前進抵抗によつて生じるモーメントには差異がないとしたのは、モーメントの方向は、抵抗杆の傾斜方向の如何にかかわらず差異がないということであり、審決のこのような認定は、機体の前進によつて生じる抵抗杆の傾斜前面に直角方向に作用する牽引抵抗Rの存在を全く看過した結果、モーメントの方向についての認定を誤つたものにほかならない。

被告の答弁

原告主張の請求原因事実は、全部認める。

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